LoL WCS2017、GAM対FNC戦のスワップ戦術について

October 6, 2017 by lol-cla管理人, Patch 7.18

GigabiteMarinesがまたやってくれました。ドラフト、事前準備などから戦術を分析します
Worlds 2017のグループステージが始まりました。

初日から優勝候補である地元LPL代表、EdwardGamingがまさかの敗戦など、今年も波乱含みのスタートとなりましたが、その中でも最も印象に残ったのは、何と言ってもFnatic対GigabiteMarinesの1戦でしょう。(以下FNC、GAM)

動画はこちら

予想外のアグレッシブな戦術で知られるGAMですが、本戦1試合目から現在はメジャーではないスワップと呼ばれる戦術で欧州の強豪FNCを破りました。

そこで本記事では、そもそもスワップ戦術とはなんなのか、なぜいま採用されていないのか、どうやってGAMはスワップ戦術を成功させたのか、といったテーマで書いていこうと思います。




スワップ戦術とは



LoLでは3つのレーンにそれぞれチャンピオンを割り振って戦うゲームです。
ゲーム黎明期こそ様々なチャンピオン配置が試されましたが、シーズン1の終わりごろから、トップレーンにタンク、ミッドレーンにメイジ、ボットにマークスマンとサポートを配置し、ジャングラーを1人用意するというEUスタイルと呼ばれる配置が定跡となり、いまではRankedでのロール割り振りの仕方を見てもわかるように、Riot公式にこのスタイルが推奨されています。

この定跡を破ってトップレーンとボットレーンを入れ替える、つまりトップレーンにマークスマンとサポートを送り、ボットレーンにタンクを送るというのがスワップと呼ばれる戦術です。

スワップ戦術のメリットは主に2つあります。

1つ目はボットレーンでの2v2のレーニングフェイズがスキップできること。
プレイヤースキルやチャンピオン性能の面でボットレーンのDUOが相手に対して劣ると判断した場合、スワップ戦術を取ることで、辛いマッチアップをいくらか軽減することが出来ます。

例えばトリスターナは序盤のレーニング力は低いほうですが、タワー破壊能力はそれなりに高く、レーニングを避けてスワップをするメリットは大きいADCといえるでしょう。
ザイラが相手のサポートに来た場合には、彼女はレーンでアドバンテージを取るためにピックされるサポートですから、スワップすることで相手のピックの狙いを無効化することができます。

2つ目はジャングラーの序盤の影響力を減らせること。
スワップ戦術を行うと、左右対称だったチャンピオン配置が崩れ、それぞれのチームが人数の多いサイドと人数が少ないサイドに分かれます。(人数が多いほうをストロングサイド、人数が少ない方をウィークサイドと呼びます)
人数差が大きくなると、例えばストロングサイドでは相手がタワー下に引っ込んでしまうため、ガンクしずらいですし、ウィークサイドではガンクをしても人数差が作れないためリスクが大きいと、序盤のガンクの圧力が作り出しにくくなります。
さらに、ジャングラーの序盤の性能に関係なく、ストロングサイドのジャングルは人数差がある関係で敵のジャングルでもコントロールが容易になります。
普段はリバーを挟んでお互いのジャングルのコントロールを取り合うわけですが、スワップ戦術を取った場合にはミッドレーンを挟んでそれぞれトップ側、ボット側のジャングルをコントロールする形になります。
このため、スワップ戦術時のジャングラーの仕事は
① ストロングサイドに顔を出してシージを手伝う。
② ウィークサイドでトップレーナーのレーニングを補助する。
のどちらかが中心になります。

たとえばエリスは序盤からガンクを仕掛けて試合を動かしていけるジャングラーですが、スワップ展開になるとやや持ち味を殺されてしまいます。
ザックのようなレベル6を急ぐタイプのジャングラーは、スワップ戦術を採用することで、弱い時間帯に受けるプレッシャーや相手ジャングラーとの仕事量の差が生まれにくくなります。




なぜいまスワップ戦術が下火なのか



シーズン5以前の競技シーンではかなり頻繁に見られたスワップ戦術ですが、現在ではほとんどみられません。
理由は非常に単純で、試合開始からの5分間、トップ・ミッドのタワーが固くなる変更が入ったためです。
これによりスワップ戦術を採用するとタワーの折り合いで、スワップを仕掛けた側が大きく不利になってしまい、リスクリターンが合わなくなってしまいました。
この変更は当時様々な議論を生みましたが、あまりにも競技シーンでスワップが流行ってしまい、一般プレイヤーのプレイするLoLとプロの試合内容がかけ離れてしまっていたため、いまとなってみれば致し方ない変更だったのかな、と個人的には思っています。
(スワップ全盛期はミッド以外の4人が固まってお互いのトップとボットのタワーを2,3本折ってから試合が始まるのが恒例になっていました)




GAMのスワップ戦術はなぜうまく行ったのか



ではその下火の戦略をどうしてGAMは成功させることが出来たのか、ですが要因はいくつかあったとおもいます。
大きく分けると次の2つが挙げられるでしょう。

① FNCが全くスワップを予見できなかったこと
② ガリオとトリスターナがオンメタであること

この後事前準備の周到さやよく練られた戦術だったことを解説するつもりですが、なんといっても①が一番の勝因と言えるでしょう。
スワップが流行っていた時期の日本の競技シーンはいまよりもはるかにレベルが低かったこともありますが、スワップの練習が出来ているほうが勝つ、そんなメタになっていました。
それだけ決まってしまうと返すのが難しく、対応をしっかり行えないとそれだけでゲームに敗れてしまう、スワップとはそういう戦術なのです。

②はマップカバー能力とウェーブクリア能力を併せ持ったタンクガリオというチャンピオンの存在です。
スワップゲームではトップレーナーが2v1のレーニングを強いられるので、序盤からある程度強くウェーブクリアが得意なチャンピオンをピックする必要があります。
さらにトップレーナーにお金が集まらないので、よりお金が必要ないタンクタイプのチャンピオンが望ましいです。(LoLでは防具のほうが武器よりも値段が安めに設定されているため)
そしてストロングサイドとウィークサイドでマップコントロールをお互い渡しあう展開になるので、オブジェクトがトレードされ、タワーが消え、ゲーム中盤以降は散発的な戦闘が起きやすいので、グローバルアルティメットを持ったチャンピオンの優先度が高まります。

これらすべての条件を兼ね揃えたチャンピオンはガリオとサイオンくらいであり、特にガリオはミッドでもトップでも使えるため、相手に戦略を悟られにくいことも含めて非常にスワップに向いたチャンピオンと言えるでしょう。

トリスターナもシージが得意、強くなるのに経験値とお金が必要、とスワップに向いた性質をもったチャンピオンで、しかもオンメタとあって自然にピックできます。

GAMの戦術は初見では意外だったものの、落ち着いて見てみるとなるほど理にかなった作戦だったといえるでしょう。




GAMの事前準備



ここからはゲーム内外の細かい戦術準備について解説します。

ルルのイグナイト/ヒールのサモナーズスペルが目立ちましたが、攻撃速度の印を採用して、マスタリーも12/18/0と非常に攻撃的なチョイスをしていました。

イグナイトとヒールはそれぞれ直接戦闘にかかわるサモナーズスペルで、その成果もあって4:45時点でマオカイをタワーダイブによって仕留めています。

他にはガリオのマスタリーも少し変わっていて、塔守の誇りを選択していました。
はタワーの付近にいると物理・魔法防御が上昇するという効果。
スワップ戦術を用いた際、トップレーナーはタワー下で相手のハラスに耐える展開になりがちですから、これも納得の選択といえるでしょう。

ノクターンはあまり競技シーンではみないチャンピオンです。アサシンタイプでありながら序盤の1v1はあまり得意ではなく、マップカバー能力、ユーティリティ能力の面でカ=ジックスに劣るのがその理由といえるでしょう。
特に問題となるのはレベル6でアルティメットのパラノイアを覚えるまでプレッシャーを生み出せないという点ですが、スワップゲームでは上記の通り、序盤のジャングラーの影響が両チームともに削られるので、この弱点を帳消しにできます。


GAMの徹底されたゲームプラン





これが両チームのピックです。

エリス、ヴァルスをピックしたFNCは序・中盤にリードを作りたい構成です。ライズのパワースパイクは遅いですが、Wのルーンプリズンでキャッチの補助を行うことは低レベル時から十分できますし、なんといってもヴァルスの穢れの連鎖やエリスの高いダメージでピックアップを行えるのが強みの構成といえるでしょう。
ある程度のリードを作ってしまえば、多少ゲームエンドが遅れても、ライズのバロン確保能力の高さやダメージのスケーリング、ヴァルスのサードアイテムになるグインソーレイジブレードが間に合う算段です。

一方のGAMの構成はカサディンとトリスターナという中盤に弱いチャンピオンが揃っています。
カサディンのレベル13(最低でもレベル11、Rのリフトウォークのレベル2か、Eのヴォイドパルスのレベル5)、トリスターナのレベル11(通常攻撃の射程がライズのWのルーンプリズンの射程を上回る)を待ってから集団戦を起こしたい構成になっています。

これを総合するとGAMのチームとしての狙いは

① ノクターンをスノーボールさせる
② ノクターンのパワースパイクを活かしてオブジェクトトレードやピックアップで時間をかせぎ、トリスターナとカサディンのパワースパイクを待つ

といった感じになります。



まずGAMはノクターンに非常に丁寧なリーシュを行いました。
この形自体はブルーチームがボットレーンサイドでスタートするときによくみられるのですが、序盤にガンクやカウンタージャングルを行うチャンピオンをピックした場合に、より多くの体力を残すために選択されることが多いパターンです。



そのままガリオはノクターンのリーシュを続けボットサイドのジャングルをフルクリアしてからボットレーンへと入ります。
以前はこういったリーシュを行うとジャングラーとトップレーナーで経験値を分配してしまっていたのですが、現在は仕様がかわり、ジャングラーにしか経験値が入らなくなりました。
このあとノクターンは一緒にボットレーンに入り、さらにミニオンの経験値を吸って育っていきます。



FNCも対応してエリス、ライズをボットレーンに送りダイブを仕掛けます。
エリスがレーンに見えた段階でルルはトップのタワー下にいたマオカイにプレッシャーをかけ、ボットレーンへとテレポートさせるように仕向けます。
結果、カサディン、マオカイがそれぞれTPを切りあう形になり、ボットレーンで3v5の戦いが起きます。
ここでGAMはガリオを倒されファーストブラッドを献上しますが、リスポーン後即テレポートでレーンに帰還、経験値のロストを最小で留めます。
一方マオカイはリコールしてから歩いてレーンに戻らなければならず、ここでトップレーナー同士で大きな経験値差が生まれました。



ここで生まれた経験値ロストを活かしてルル・トリスターナがダイブを慣行。エリスのカバーが間に合い1-1トレードに終わりますが、ガリオレベル3に対し、マオカイレベル1とさらに差は広がってしまいました。



その後もミッドレーンのカバーに回るなど経験値をかき集めたノクターンはなんと5分30秒を待たずにレベル6に到達、ボットレーンへのgankを成功させます。
この時間帯にノクターンがレベル6になっているのはFNCにとっては完全に想定外だったでしょう。
このあとマオカイとライズが寄ってきて再び戦いが起こりますが



ノクターンレベル6に対してマオカイレベル2。ガリオとノクターンを倒すことに成功したFNCでしたが、この一連の戦いでノクターンは3キルを獲得し、スノーボールに成功していきます。



この後のGAMのゲームプランも秀逸でした。
画像はボットレーンでFNCが戦いを仕掛けてガリオを討ち取ったあとのシーンです。
一見FNCの勝利に見えますが、トップレーンではウェーブがセカンドタワーに飲み込まれ、ミッドではトリスターナが一人でシージを続行、経験値とお金とさらにタワーまで獲得しています。
先に挙げた条件②である、トリスターナとカサディンのパワースパイクまで徹底して集団戦を起こさない。少数戦を起こすとしてもトリスターナのいないサイドで起こす、というのを完全に守ってプレイしていたのが印象的でした。
事実、ほぼすべての時間帯でトリスターナはヴァルスよりもゴールド、経験値面で上回っており、チーム全体で彼女を育てるプランがしっかりと遂行されていたといえるでしょう。



試合を決定づけた集団戦。
しっかりとトリスターナとカサディンのレベル11という条件を満たした状態で戦えています。
マップカバー能力が高く、アイテム依存度の低いガリオというピックが非常に効いた集団戦となりました。



まとめ



GAMは素晴らしい奇襲戦術でヨーロッパの強豪FNCを破りました。
ただし、あくまでこの戦術は奇襲の域を出ていないだろうと思います。
基本的にスワップは仕掛ける側が不利な戦術なので、警戒されてしまえば相手に逆利用をされるだけになってしまいます。

BANPICK面での対策も容易です。
例えばガリオをBANすること、これが最も簡単で確実な対策になります。
実際、その後のLZ、IMT戦ともにファーストBANでガリオが消されていて、プロの見解も同様のようですね。

警戒されてしまえば、FNCのようにエリスジャングルを選択することもないでしょうし、スケーリングタイプのADCをチョイスすればスワップによるオブジェクトのトレードも全く苦になりません。

このままスワップだけを使い続けてもグループステージ突破は難しいと思うので、明日から始まる第2週でGAMが新たな戦術を見せてくれるのかどうか、注目したいところです。